世界的に有名なボリウッド、ヨガやアーユルヴェーダ。最古の文明発生地ならでは多様な文化が、長い時間を掛けて紡ぎだされています。
文化
ボリウッド
インドは、映画制作の本数も観客総数も世界一多い映画大国である。ヒンディー映画産業の原動力であるボリウッドは、西インドのムンバイを拠点としている。年間約800本の映画を制作し、インド国内で約1,400万人の視聴者を獲得している。
インド映画は2013年に100周年を迎えた。インドで国産映画の製作が始まった年は1912年、初の国産映画「ハリシュチャンドラ王」が公開されたのが1913年とされている。当然、当初は無声映画であった。インド映画がトーキー化した1930年代、多言語社会に対応する形で、各地域の主要都市を中心に、言語別に映画製作が行われ始め、各地で名監督やスター俳優が育ち、映画業界が分かれていった。さらに、単なる言語別の映画製作ではなく、それぞれに地域制や特徴のある映画作りが行われるようになった。
ちなみにインド映画全体のことを「ボリウッド」と誤って呼ぶことが多々あるのだが、実際には「ボリウッド」と呼ばれるのは基本的にマハラシュトラ州の州都ムンバイ(旧ボンベイ)を中心としたヒンディー語映画業界のみであり、それ以外の映画業界は「ボリウッド」に倣う形でそれぞれ別の愛称を持っている。言うまでもなく「ボリウッド」とは「ボンベイ+ハリウッド」の造語である。
ヒンディー語映画以外にも、テルグ語で映画を作る「トリウッド」や、タミル語映画、カンナダ語映画、マラヤラム語映画もある。タミル語映画としてヒットした作品を、同じ脚本のまま出演者だけをヒンディー映画界の俳優に変え、リメイク作品として公開されることもある。
ベンガル語映画時代 1960~1990年代
西ベンガル州の州都コルカタ(旧カルカッタ)を中心にベンガル語で製作される映画をベンガル語映画と言う。アジア人初のノーベル文学賞受賞者ラビンドラナート・タゴールを輩出した土地柄からか、芸術性や社会性の高い映画作りが特色である。近年では年間150本前後の映画が作られており、インド国内では製作本数トップ10に必ず入っている。
タミル語映画時代(第1次インド映画ブーム)1998~2002年
南インドのタミル・ナードゥ州の州都チェンナイ(旧マドラス)を中心的な拠点として、タミル語話者のために作られている映画をタミル語映画という。インドのIT産業が南インドを中心に発展してきたこともあり、タミル語映画はテクノロジーの導入という点で最も先進的である。年間300本前後の製作本数を誇り、インド映画御三家に数えられる。
日本でインド映画の新時代を切り拓いたのは「ムトゥ 踊るマハラジャ」(1995年)であった。
空白の時代 2003~2009年
2003年度以降、しばらくインド映画がほとんど日本で公開されない時代が続いた。皆無ではないのだが、興行的に満足の行く成績を上げられた作品はなく、進展はなかったと言っていい。唯一の明るいニュースは、英国人監督ダニー・ボイルが撮った「スラムドック$ミリオネア」(2008年)がアカデミー賞の作品賞や監督賞など8部門を受賞したことである。
ヒンディー語映画時代(第2次インド映画ブーム)2010年代
インドの連邦公用語であり、インドの全人口の約4割が母語とするヒンディー語を使用言語としたヒンディー語映画は、インド時代の代表である。ヒンディー語の話者人口は北インドに集中しているが、ヒンディー語映画の製作はマラーティー語圏内にあるムンバイで行われており、インド全土を市場と見据えている。近年は年間350本ほどの製作本数を誇っており、インド映画の中ではほぼ毎年トップを独走している。
日本で一般公開された歴代のインド映画の中で、作品の質と興行成績の両面で最高の評価を得たのは、「きっと、うまく行く」(2009年)であろう。インド工科大学をモデルとしたエリート大学で出会った3人組の騒動と再会を描いた深みのあるコメディ映画で、インドの教育問題に娯楽映画の形式で切り込んだ傑作である。
テルグ語映画新時代 2017年~
ヒンディー語映画、タミル語映画と並んで、御三家の一角を成すのがテルグ語映画である。南インドのテランガーナ州の州都ハイデラバードが拠点で、同州とアーンドラ・ブラデーシュ州で話されているテルグ語の話者が主な観客である。テルグ語映画の特色は、徹底的なまでの娯楽の追求である。暴力性も高く、最も血みどろで、最もグロテスクな作品が作られている。
教育期間も充実しており、国立演劇学校(ニューデリー)、Satyajit Ray Film and Television Institute(コルカタ)、Asian Academy of Film and Television(ムンバイ)、Center for Research in Arts、Film and Television(ニューデリー)など、アーチストを育てるための一流の教育機関が多数ある。
出典:
インド政府観光省
インド経済大全
クリケット
インド人の国民的スポーツといえば、クリケットである。オーストラリア、ニュージーランド、南アジアでも人気が高い。
ボールとバットを使うという点では野球に似たところもあるクリケットだが、競技時間が大変長く、真昼の休憩を挟み一日中続くこともある。インドの大きな街にはクリケットスタジアムがあり、街中の至る所で人々が草クリケットに興じている姿が見られる。
プロスポーツとしてのクリケットも人気が高く、テレビでの試合中継にくぎ付けになる人も少なくない。
フォーブスが発表した 2017 年の世界のアスリート年収ランキングでは、インドのプロクリケットプレーヤーであるビラット・コーリ選手が 89 位にランクインし、競技収入とスポンサー収入を合わせた年間総収入は 2,200 万ドルと言われている。
超有名選手になると、年俸やスポンサーからの資金で年収2千万ドルを超える。競技人口は少なく見積もっても1億5千万人。
テレビでの視聴者人口も多く、2018年4月には5年分の国際代表試合の放映権が614億ルピー(約950億円)で落札された。
出典:
国際協力銀行
世界遺産
世界遺産リストには、2021年時点で1154件が登録されている。
文化遺産、自然遺産、複合遺産の3種類があり、世界遺産登録数ランキングにおいて、その合計数が世界で最も多いのはイタリア(合計58:文化遺産=53、自然遺産=5、複合遺産=0)である。中国、ドイツ、スペイン、フランスと続き、インドの世界遺産の登録数は世界遺産登録数ランキングにおいて第6位である。
●インドの世界遺産 合計40(文化遺産=32、自然遺産=7、複合遺産=1)
文化遺産
・ラージャスターン州のジャイプル市街
・ムンバイのヴィクトリアン・ゴシックとアール・デコの遺産群
・古都アフマダーバード
・ビハール州ナーランダ―のナーランダ・マハーヴィハーラの考古遺構
・ル・コルビュジエの建築作品、チャンディガールのキャピトル・コンプレックス
・チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅(旧ヴィクトリア・ターミナス駅)
・ジャイプルのジャンタル・マンタル
・グジャラート州パタンのラーニキ・ヴァヴ(女王の階段井戸)
・チャンパネール=パーヴァガドゥ遺跡公園
・デリーのクトゥブ・ミナールとその建造物群
・ビンベットカの岩陰遺跡群
・インドの山岳鉄道群
・赤い城の建造物群
・アーグラ城塞
・コナーラクのスーリヤ寺院
・マハーバリプラムの建造物群
・ゴアの教会群と修道院群
・カジュラーホの建造物群
・パッタダカルの建造物群
・ファテープル・シークリー
・エレファンタ石窟群
・大チョーラ朝寺院群
・サーンチーの仏教建造物群
・デリーのフマユーン廟
・ラージャスターン州の丘陵要塞群
・アジャンターの石窟寺院群
・ブッダガヤの大菩提寺(マハーボーディー寺院)
・ハンピの建造物群
・エローラ石窟群
・タージ・マハル
自然遺産
・カジランガ国立公園
・スンダルバンス国立公園
・ナンダ・デヴィ国立公園及び花の谷国立公園
・マナス野生生物保護区
・大ヒマラヤ国立公園
・西ガーツ山脈
・ケオラデオ国立公園
複合遺産
・カンチェンジュンガ国立公園
出典:
世界遺産オンラインガイド(2021年)
ヨガ
「ヨガ」という言葉は、身体と意識の結合を統合し、象徴することを意味している。
5.000年以上前から何世代にもわたって人類に利益をもたらしてきたヨガは、運動、呼吸、瞑想を一体化させた芸術である。意識を高め、バランスを改善し、不安を軽減するなど精神的な効果以外にも、肉体的な健康を管理するのに役立つ。
ヴィンヤサヨガ
ヨガの流派の中で最も人気がある。呼吸法に従って行われるダンスのような一連の滑らかな動きで構成される。一般的に暗い部屋、もしくは目を閉じて行われる。
アシュタンガヨガ
アシュタンガヨガなどの伝統的なヨガは、動きと呼吸を同期させ、通常、口頭での指導や音楽なしで行われる。
アイアンガーヨガ
難易度の高いポーズが要求されるヨガ。ゆっくりとしたペースで実践されるこのスタイルのヨガでは、ストラップ、毛布、ブロックなどの小道具を使用する。
ハタヨガ
初心者向け。ハタヨガは、すべてのヨガの練習の総称としても用いられる用語である。
クリパルヨガ
瞑想、自己実現、リラクゼーション、プラナヤマに焦点を当てて、スピリチュアリティを探求するヨガ。
インドには、さまざまなウェルネスリゾート、アシュラム・リトリート(ヒンドゥー教の遁世僧院の静養所)、ヨガ瞑想センターがあり、ヨガを学びたい人にクラスを提供している。
パマース・ニケタン(リケシ)
ウッタラーカンド州の聖なる町リシケシの素晴らしい山脈を背景にしたパマース・ニケタンは、ウェルネス休暇の理想的なスポットとして有名である。訪問者に宿泊施設を提供し、初心者にヨガのクラスを提供している。さらに、毎年3月に開催される1週間にわたる有名な国際ヨガフェスティバルの主催者でもある。訪問者は、アーユルヴェーダ、ヨガ、ヴェーダーンタを統合してユニークなウェルネス体験を生み出すリゾート施設、スパ・リゾート・アナンダを訪れることもできる。
ヨガ・インスティテュート(ムンバイ)
世界最古のヨガセンターであるマハーラーシュトラ州ムンバイのヨ・ガインスティテュートは、数多くの優れたコースやワークショップを提供し、心臓病、高血圧、糖尿病、呼吸器系の問題、ストレスなどの病気の治療を目的としている。
ラママニ・アイアンガー・メモリアル・ヨガ・インスティテュート(プネ)
マハーラーシュトラ州プネにあるラママニ・アイアンガー・メモリアル・ヨガ・インスティテュートは、科学的で詳細なヨガ研究に基づく研究所である。定期的なクラスが開催され人気を博している。
出典:
インド政府観光省
アーユルヴェーダ
アーユルヴェーダは、インド大陸の伝統的医学である。中国医学と共に世界三大伝統医学の一つである。
トリ・ドーシャと呼ばれる3つの要素(体液、病素)のバランスが崩れると病気になると考えられており、これがアーユルヴェーダの根本理論である。伝統的なヒンドゥー医学システムに基づいており、ヨガの呼吸、ハーブ療法、食事を通して体のシステムのバランスをとる方法で、インドでは、公認の医学体系の一部である。
いま現在、インドで有名な施設は下記。医学の研究所としての役割を持つ機関や、スパなど他の健康増進治療と組み合わせたセンターなど、さまざまな施設がある。
●アーユルヴェーダの最高機関は首都デリーにある。この「オールインディア・インスティテュート・オブ・アーユルヴェーダ」では、現代の生活に古代の知恵を融合させるための研究を行っている。
●治療施設については、広大な施設を持つ「アーユルヴェーダ・グラムヘリテージ・ウェルネスセンター」が有名である。
●ウッタラーカンド州、デラドゥンの美しい丘に立地する「ヴァナ」は、アーユルヴェーダ以外にも、チベットの癒し(Sowa Rigpa)、ヨガ、自然療法、そしてスパ、フィットネス、アクア・トリートメントなど現代の治療施術を組み合わせた癒しを提供する健康施設である。
●ナーシクから45kmのイガットプリには、自己浄化のための瞑想を中心とした「ヴィパッサーナ国際アカデミー」がある。
●ゴアには、アーユルヴェーダと精神的治癒のための自然治癒を提供する、アーユルヴェーダとネイチャー・キュア・センター「デヴァヤ」がある。
出典:
インド政府観光省
テキスタイル
織物、プリント、パッチワーク、刺繡、ステッチ、そして鮮やかな色とパターン。太古の昔から、スパイス同様、インドのテキスタイルは隊商貿易の重要な品目であった。ジャンムーカシミール州のパシュミナは、国内で最も評価されている高価な羊毛織物の1つである。連邦直轄領は、カシダリとアーリと呼ばれる独特で複雑な刺繡技術でも有名である。刺繡やステッチの分野では、ウッタルプラデーシュ州の有名なチカンカリ作品、西ベンガル州とオリッサ州のカンタ、パンジャブ州のプルカリ、インド中部のザルドジ、ラジャスタン州のパッチワーク、グジャラート州のミラーなどが人気である。シルクに至っては数えきれないほどの種類がある。趣のある優雅なチャンデリシルクから、バガルプリシルク、ムンガシルク、マイソールシルク、クチャイシルク、贅沢なカンジーバラムシルク、ベナラゼーシルクなどが有名である。
今現在、手仕事を生かした多様で豪華なインドのテキスタイルが日本でも存在感を高めている。その希少性に加え、最小ロット100メートルという利便性が新進アパレルを中心に支持され、日本でも採用が広がっている。インド繊維省傘下のインド手織り生地輸出振興局は2017年、スヴァルナ・テキスタイルズとイースタンシルク・インダストリーズによる展示内見会を東京都内で初めて開き、旺盛な引き合いに手応えを得た。
「スヴァルナ・テキスタイルズ社」は、インドに集積する家内工業を取りまとめ、手紡ぎ・手織りの生地、ストールを手掛ける。特に力を入れているのが、カーディーコットン。「インドでできる最もすばらしい細番手の手紡ぎ糸」で、綿番で300番手まで揃える。熟練工が手織り機で時間をかけて織り上げ、風合いは柔らかく滑らか。インド政府繊維省が管理し、インド東部の限られた村でのみ生産される。さらに希少性が高いのが、ムガシルク。インドのアッサム州にしか生息しない野蚕の一種、ムガ蚕からとれる黄金色の最高級シルクだ。品の良い光沢と野蚕ならではの節が独特の表情を生み出し、軽く強いのも特徴。近年は害虫や農業用の殺虫剤の影響を受け、年間生産量は30トンと極めて少ない。
「イースタンシルク・インダストリーズ社」は、手織り機から最新鋭の織機まで揃え、シルクを軸に無地、ジャカード、刺繍レースと多彩なテキスタイルを生産している。大手でありながら、1色100メートルから受注し、日本への輸出実績も豊富だ。
インドの繊維産業は、GDP(国内総生産)の2%、輸出額の13%を占める。展示内見会の会場提供などで協力する日本繊維輸入組合によると、輸出先は欧州、米国向けがそれぞれ3分の1で、「日本は1%にとどまっているが、着実に伸びている」という。インド政府は、手織り生地やストールの輸出拡大を推進しており、今後も日本での展示内見会の開催を検討するという。
出典:
インド政府観光省
繊研新聞社(2017年9月)
絵画
インドで発見された最も初期の絵画は、洞窟の壁に描かれていた壁画である。エローラ石窟群のカイラッシュ寺院には有名なフレスコ壁画もあり、インド亜大陸の美的技術と感性を後世に伝えている。エローラ石窟群は岩を切り出した建築物の最高の例と見なされており、4世紀から9世紀にかけて彫刻されたヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教の洞窟で構成されている。
古来から視覚芸術の伝統は、インド文化の最も重要な側面であり、全国に多くの流派が存在している。
細密画(ミニアチュール)は、その名前が示すように、極小のサイズで驚くほどの繊細なディテールで描かれている。
ムガル絵画の技法は、北インドのペルシャ文化に触発され、この流派は、細密画のジャンルにも大きな影響を与えた。
パハリ絵画の流派は、主にラージプート(現在のラージャスターン州に居住する民族。 インドの正統的な戦士集団たるクシャトリヤの子孫であることを意味する)によって継承され、王国の多くはムガル帝国と密接に関係していたため、この技法にもムガル絵画の影響が色濃く浸透している。
芸術愛好家にとって、マイソールの絵画は格別である。金箔で装飾されたこれらの絵画は、宗教上の人物の描写であるという理由を抜きにして、控えめに言っても神の世界そのものである。
タンジョール絵画は、南インド国の芸術形式である。宗教的なインスピレーションを感じさせるこの絵画には、鮮やかな色、金箔、そして豊かな効果を生み出すガラスビーズが効果的に使われている。
中央インドのマドゥバニの民芸品も個性的である。その絵は布もしくは紙に描かれ、自然から着想を得たモチーフやデザインが取り入れられている。
出典:
インド政府観光省