「せんせいは、かんじでキリンってかけますか?」
2018年5月のとある日。日中の過酷な暑さを予見するように、その日は朝からよく晴れていました。
私はインドのムンバイ大学の教室の教壇にひとり立っていました。教室の座席には、20人ほどのインド人学生たち。最前列席は日本の大学の講義の際によくあるような教える側と教えられる側を隔てる緩衝エリアとはなっておらず、教室の前方から順にみんな行儀良く腰掛けています。そして視線の先には、緊張した面持ちで教壇の前にたたずんでいるひとりの日本人。
質問は、ひとりの女子学生から投げかけられた言葉でした。

5月のこの時期は、本来大学は休校の時期とのこと。
ところがインド人の日本語語学担当の先生たちが、学生さんたちに声をかけてくれました。東京からはるばる日本人がやって来る。興味があれば集まるようにと。

普段以上に表現と発声に注意し、そしてゆっくりと話を始めた私の顔を、興味深く凝視する学生たち。
その輝きを放った瞳の群れを目にした瞬間、私はただ圧倒され、今まで体感したことがない感覚に襲われました。その正体が何かは私にはよくわかりません。ただ、これまで一度も触れたことのないものに心の奥底をさらわれた、そんな感覚に近かったように思います。

日本とインドの関係は大変古い歴史があります。ただ、地理的には遠く、文化や生活も大きく異なります。ムンバイはインドで最も人口の多い大都市で、日本ともビジネスマンの往来は活発です。でも、大学の日本語専攻の学生さんたちの前に出現する日本人は、まださほど多くはないのかもしれません。日本人と直接話す機会に恵まれない、そんな日本語学習者たち。彼ら、彼女らができることは、例えばキリンのような私も書けない難しい漢字を一生懸命覚えたり書いたりできるようになる、それが日本語学習を進めるひとつの深化の方法と考えたのかもしれません。

ムンバイ大学のキャンパスで先生や学生さんたちと     Ajay-san, Thank you for coordinate and attend.

同じアジアの地にあって日本の日常とこの国の日常の違い。インドの人たちに宿るパワー、いたるところで沸き立ちそして伝播する強い思い。私たちがいつかどこか遠くに置き忘れてしまったものがそこここから溢れるように吹き出し、そして私たちに語りかけ、心を捉えて放しません。

インドは、いくつかの点で、日本とは真逆の国でもあります。それは、国民の年齢構成であったり、産業に関わる構成比であったり、多くの点で異なりがあります。
考え方を変えれば、相互に補完できる関係にある。そんな言い方もできるのかもしれません。

そして、IT。
ITは、両国において今後の国力を担う国家の重要な産業である、その点は大きな共通項です。
私たちは、このITの分野で両国の協力関係を一層深めることが、両国のさらなる発展につながると考えました。

ITは技術。また一方で ITは人。

かつて私たちの国日本は、世界的なコンピューティングの隆盛を生み出す先導的なプレイヤーとしての地位を追い求めていた時代がありました。
ところが、いつかしら世界的なIT業界の大きな潮流から遅れをとり、特に昨年来のパンデミックの状況下にあって、様々なIT化の課題が白日の下にさらけ出されました。「一周遅れのIT後進国」と自虐的な揶揄にも抗せず思わずうなずいてしまう、そんな自分たちの姿もなにか日常的なものとなりつつあります。

しかしながらそのような状況にいつまでも甘んじることは、私たちの正しい選択の道ではありません。
ITの力をもっと役立て、活用に向けての道を推し進めなければなりません。
私たちの社会や生活を支えるために。
日本人の瞳にもかつてのような輝きを取り戻すために。

そのためのパートナーとして、IT大国インドのパワーを私たちの力にしたい。
その道程の先に、両国のさらなる発展の灯りが見える、私たちは真にそのように考えています。

髙山 基一

・株式会社Global Runway 代表取締役
・株式会社ワープ・スタイル 代表取締役
・Sepia Innovations株式会社 代表取締役
大学卒業後、大手ITベンダーにて、SI事業、ASP事業等に従事。
PMP、ITコーディネータ等の資格を取得。
2011年 株式会社ワープ・スタイルを設立。会社経営の傍ら、ITコンサル等の業務に従事。

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